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中3の夏


 甥っ子が参加した中学校の総合体育大会を見に行った。場所は千葉市の総合スポーツセンター。
 甥っ子が参加したのは剣道で、場所はスポーツセンター内の武道館だった。
 その日は個人戦が行われ、参加者は男女あわせて200名程度。試合はトーナメントで行われ、その中から県大会への参加者が選ばれる。県大会へ進めるのは男女ともに3名のみだ。
 甥っ子は中学から剣道を始めたばかりで、まだキャリアは2年半しかない。強豪はみな小学生のときから稽古をしている。かなり不利な状況なのだが、甥っ子はかなり強い部類に入るらしい。
 甥っ子の中学は市内では、トップクラスの強豪校で、日々厳しい稽古を重ねてきた。その甲斐があって、現在はその強豪校で副部長を務めるナンバーツーだ。
 市内で個人戦トップスリーに入るのは至難の業だ。しかし本人はそれなりに自信があり、何より強い希求心がある。
 甥っ子のブロックには、新人戦で優勝した市内で最強の剣士がいた。順調に進めば、準々決勝で激突する。もし彼に勝つことができれば、県大会への道は一挙に開ける。
 一回戦、甥っ子は圧勝した。制限時間は3分で、二本先取した時点で試合は終わる。甥っ子の一回戦は、1分もかからずに終了した。
 甥っ子の剣道の試合は、ビデオでは見たことがある。かなりセンスがいいように思った。実際に始めて、彼の動きを見たが、相当に強い。剣道は2年半のキャリアだが、空手は小さいころから続けていて、県の大会で準優勝したことがある実力者だ。相手の動きをわずかな動きでかわし、電光石火のカウンターを決める動作は、空手で会得した反射神経のおかげかもしれない。
 一回戦が終わった時点で、甥っ子に声をかけにいった。先述のごとく、甥っ子の中学は強豪である。強豪校は特権として、ソファーのコーナーを独占できる。特権を有するのは市内で二校のみ。
 ソファーに行くと、甥っ子はどっしりと腰を下ろし、大物然としてくつろいでいた。周りには1、2年生がかしずいていて、一目で実力者と分かる雰囲気を醸し出している。
「よかったぞ、さっきの試合。しかし次の奴は、強そうだな」。次に当たることがわかっていたので、僕は相手の試合をよく観察していた。動きは荒っぽいが迅速で、さらにパワフルだ。
「たいしたことないよ」。しかし甥っ子は実力者らしく、余裕の返答だ。剣道の世界は競技者がそれほど多くないから、市内の選手はほぼ全員知っているようだ。その選手とも何度か手合せしたことがあるのかもしれない。
 いよいよ2回戦が始まった。両者がそんきょの姿勢になったとき、大人の男性が近づいてきて、いきなり甥っ子を場外に追い出した。いったい何があったのだろう。見物客は騒然となった。
 剣道は対戦者を識別するために、赤と白のリボンを背中につける。甥っ子は白の側だったが、そのリボンを付け忘れ、審判に注意されたようなのだ。
 それからの甥っ子の慌て振りは、見ていてかわいそうになるほどだった。近くにいたチームメイトに借りようとしたが、あいにく持っていない。走って、例のソファにまで、取りに戻ったようだ。会場に戻ってきたときは、肩で息をしていた。
 さて試合が始まった。甥っ子の動きは固い。体中に力が入ってしまっている。やばい、そう思った瞬間に両者が激突した。すると審判の赤旗がいっせいに上がった。何がおきたのだ。あれで一本なのか。剣道の判定は素人には難しい。きっと面が入ったのだろう。
 二本目が始まった。甥っ子は怒涛の責めを繰り広げた。相手を押して、押して押しまくる。しかし相手も負けていない。竹刀を振り回し、気力で押し返す。
 どんどんと時間が過ぎていく。相手の応援団は時間切れを期待し、「守り切れ~」と、声援を送る。
 ああ、時間が終わってしまう。そう考えたまさにそのとき、甥っ子と相手が同時に面を打ち合った。やった、これで同点だ。しかし挙げられた旗は、4本とも赤だった。
 なんと想定外の2回戦負けを屈してしまった。
 これで個人戦は終わった。毎朝、誰よりも早く体育館に行き、放課後は誰よりも遅くまで残って稽古をしていたことは妹から聞いていた。その努力の結果が、2回戦敗退だった。
 僕はすぐに、母と帰ることにした。妹夫婦はすべての試合を最後まで見ると言って、残っていた。
 帰りしな、例のソファに行くと、甥っ子は両足を大きく広げ、ソファにふんぞり返るようにして座っていた。辺りには緊張感が漂い、後輩たちは遠巻きにして立ち尽くしていた。
 僕らそれぞれが声をかけると、甥っ子はただ悔しい表情をするばかりで、無言で返した。
 母は途中、買い物をしていく予定だったが、「力が抜けた」といって、そのまま家まで帰って行った。僕はビールのロング缶を千葉駅のキオスクで買い、総武線のボックスシートでひとり飲みながら逗子まで帰った。
 

コメント

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癒し

YAMATAKUさんの文章は、何か癒しがありますね。

Re: 癒し

エンジニアHさん

コメントが遅れて、申し訳ありません。長い間、ブログを放置しておりました。
ありがたいお言葉、嬉しいです。
プロフィール

山本 拓也

Author:山本 拓也
職業:翻訳者
過去の職歴:HSBCを経て産経新聞社
家族:妻、フクちゃん(猫オス 3歳)、大吉くん(猫オス 2歳)
住まい:逗子

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