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ひとvsたぬき もし闘わば


 最近、珍しい光景に続けて会った。
 一度は先々週のこと。いつものウォーキングコースを歩いているとトンビが柵の上にとまっていた。トンビはけっこう積極的で、ひとが手にするハンバーガーを奪い取ったりするが、この辺りのトンビはおとなしい。ひとが近づくと、自ら飛び去る。ところがこのトンビは、僕が近くへ歩いて行っても動こうとしない。
 それに様子がちょっとおかしい。近づいてわかったのだが、小さい。普段目にするトンビよりも、ふたまわりぐらい小さい。子どもだろうか。
 もっと近づくと、また違いに気付いた。色が濃い。トンビはトンビ色だが、その鳥はもっとこげ茶に近かった。そう、その鳥はトンビではなかったのだ。どうも鷹の一種のようだ。
 鷹はまた近づいて気付いたのだが、足にひもが結ばれていた。そのひもの先に視線を向けたら、若い男性がいた。女性が横に座っていた。
 むむ、もしかして鷹匠? こんなところに、鷹匠が来るなんて。狩りが見られるかもしれない。ラッキー。
 僕は男性の前を横切った。そのとき僕の両脇には、男性と鷹がいた。つまり僕はひもを乗り越えて、通り過ぎたのだ。鷹からの距離は2メートル程度だ。でも、男性は何も言わない。
 あえて男性と視線を交わすつもりで、見つめたのだが、男性は女性との会話に夢中で、僕の方に視線を向けなかった。目が会ったら、話をしたかったのだが。
 ふたりと一羽の間を通って思ったことは、彼は鷹匠ではない。鷹も狩りを仕込まれたものではない。
 なぜそう思ったかというと、男性も鷹も目が優しかったからだ。鋭さがまったくない。2メートルの近くによっても、まったく恐れを感じなかった。あの目では、獲物を捕れないに違いない。きっと鷹はペットである。男性はデートのついでに連れ出して、人がいない森の中で、鷹を遊ばせていたのだ。

 次の話題。先週のことだ。また同じ場所だった。
 若い男性と女性に出会った。ふたりは犬なんかを入れるゲージを二つずつ、足元に置いていた。ゲージの先には、見慣れない動物が何頭かいた。
 動物は狸だった。そのときは、男性の方から「こんにちは」と声をかけて来た。それで暫く話ができた。
 なんでもふたりは動物園の職員で、その日は狸を自然に返しに来たそうだ。狸は行政からの依頼で、住宅街に迷い込んだり、怪我をしたのを保護したものだそうだ。
 四頭の狸は僕が見ている前で、スタコラサッサと森の中に消えて行った。あっと云う間のできごとだった。ふたりの職員もすぐに、その場を立ち去って行った。
 それから僕はまたウォーキングを再開した。細い山道をしばらく歩くと、そこで狸と出会った。さっきリリースされた狸だ。
 その狸は僕を恐れなかった。僕はうれしくなって、「いい子ちゃんねえ」なんて声をかけながら、すぐ近くまで寄った。そうしたら、なんと狸は「シャー」なんて言って、牙をむいたのだ。思わず僕は後ずさりした。
 そこで考えた。これはいかん。もしここで僕が弱みを見せたりしたら、人間を恐れなくなるだろう。中には悪い奴もいる。そんな人間に出会ったら、簡単につかまって、もしかしたら狸汁にされてしまうかもしれない。
 そこで僕は勇気を奮い立たせ、狸に向かって行った。かなり近づいた。そしたら、また「シャー」である。近くで見ると、ものすごく鋭い牙である。僕はまた、一時退却を試みた。
 あの牙で噛まれたら、僕のはいている安物のジーンズなんて、簡単に破られてしまうだろう。脚に食い込む牙を想像する。
 いや、しかしここで逃げてはいけない。もし逃げたなら、この狸は人間が自分よりも弱いと考えるようになるだろう。そうしたら、これから森で出会った人を襲うようになるかもしれない。この辺りは子どもや老人も多く歩く。人間代表として、人間の恐ろしさを教える義務が僕にはあるのではないか。
 僕は足元に落ちていたドングリを拾い、狸にぶつけてみた。最初はゆるく投げつけた。狸は知らん顔だ。そこで次は心を鬼にして、思い切り投げた。みごと狸の腹部に命中した。ところが狸はまったく気にする様子さえ見せない。それどころか落ちたドングリをむしゃむちゃと食べてしまった。
 まずい、ますます悪い展開だ。人間は脅せばエサを与えると、勘違いしてしまうかもしれない。そこで僕は悪魔になった。もしかしたらさっきの職員が戻ってきて、見られるかもしれないが、そんなことはもうどうでもよくなった。僕は近くに落ちていた木の枝を拾った。先がわかれていて、トナカイの角のような形状の枝だ。
 僕はトナカイの角のような枝を前方にかざし、突撃した。もう同情なんて、してやらない。向こうが悪いのだ。容赦なく、枝で狸を突いた。そうしたら、どうだろう。狸は猛然と怒って、その枝をばりばりと食いちぎってしまったのだ。もうトナカイの角ではなかった。それはただの一本の棒であった。
 僕はかつて剣術を嗜んだ身だ。棒さえ持てば、ほぼ無敵。僕は棒を青眼に構えた。さあ、どうだ。「これ以上、近づけば、己の眉間は真っ二つだぞ」。そうつぶやいたのだが、狸は怒りたけって、ひるむ様子はない。僕に向かって牙を見せ、にじり寄ってくる。やむを得ぬ。「南無」。僕はするどく太刀をひとつ放った。みごと狸の腰のあたりにあたった。
 腰を打ったのは、太刀筋がそれたからではない。眉間を狙わなかったのは、遠慮したからである。本当のことを言うと、腰は引け、なんだかやっぱりかわいそうで、そうっと腰を叩いたのだ。
 やっぱり全然、だめだった。もう狸は勝ちを確信した表情さへ浮かべている。
 こうして決着はついた。僕はじりじりと後退し、ある程度の距離を取ると、踵を返した。あとはスタコラサッサと走るのみ。
 しかしそれにしても、狸は恐るべし。棒を手にした武芸者に勝るとは。あの狸は、特別に強かったと思いたい。
 

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プロフィール

山本 拓也

Author:山本 拓也
職業:翻訳者
過去の職歴:HSBCを経て産経新聞社
家族:妻、フクちゃん(猫オス 3歳)、大吉くん(猫オス 2歳)
住まい:逗子

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